2020年の3月と10月の二度にわたり開催されたフォトグラファー30周年を記念した個展の内容をそのままここに掲載しました。
30年を6つのチャプターに分けた概要から解説、チャプターごとに展示された作品も一部掲載いたしましたので、ご興味のある方は眺め感じてみてください。
コロナ渦のため思うようにご案内できなかったこともあったので、少しでもここからお伝えできたなら幸いです。
Photographer MAL / 丸本祐佐
30th anniversary solo exhibition" Existence and Message "
「あなたの欲しい答えはその一枚の中にある」
【概要】
1990年… 自己承認のための心の外在化から始まり、
ファッション写真や著名人のポートレート、業界引退から自己改革後の「Existence and Message /命の際で見つめるポートレート」まで。
移り変わる意況や作風の中でも変わらず根底に在った「存在認知」を道導に30年の軌跡を辿る。
Chapter6:Existence and Message
【チャプター解説】
Chapter1:自己承認のための外在化
当時は意識できていないところで始めた、自己承認のために写真で表現する心の外在化。
素直に感情を表すことをしなかった子ども時代を過ごし、集団や人とのコミュニケーションが苦手だった僕が社会とバランスをとることができたのは、写真という表現方法と出会ったからだと感じています。
写真を通して自分の心を外在化したものを眺めながら自分と対話をし、気づき、知り、受け入れ、自己の存在認知が意識的に明確となり、またその写真が他者にも認められ多くのストロークを得ることで、人間形成にもポジティブな影響があったと、結果的に僕はそう捉えています。
Chapter2:はじまりのポートレート/被写体を通して自分と向き合う
1994年パリの路上で撮影した一枚のポートレート。
ずっと気になっていたその男性は、いつも車椅子の上で弱々しく項垂れ顔を見ることもできなかった状態でしたが、写真を撮らせてくださいと声をかけると「もちろんだよ」とこの写真そのままの佇まい。
撮影後に彼からかけられた「俺はここから応援している、絶対有名になれよ。」の言葉と「もちろんだよ」と答えながら突然空気が変わったあの瞬間は今も忘れられず、彼に対する尊敬と感謝の気持ちはずっと持ち続けています。
少し演出された心の外在化のために撮っていた作風はパリで発表することにより一段落していましたが、その次のステージになるであろうこの作品の続きの撮影は、それから20年も後になるとは想像すらできませんでした。
初めて正面から一対一で被写体と向き合った「はじまりのポートレート」は、被写体の存在そのものの描写を優先しようと意識しながらも、当時まだ未熟だった僕が被写体を通し自分と向き合う事の必要性を知るきっかけになった作品でもあります。
Chapter3:スタイルの構築と他者からの存在認知
これまで心の外在化というある意味表出に近いところで自由にシャッターを切っていた僕が商業フォトグラファーとしての立ち位置を考えた時、進むべき方向を見失いました。
商業ベースに乗せるには「表出」から「表現」に変えなければならない。そんな時に依頼された舞踏家やダンサーの撮影は、フォトグラファーとしてのスタイルを構築するヒントとなり「静」と「動」という二つのテイストを個性として未来に繋げることができました。
この辺りから僕の存在認知は自分自身を対象とした段階から、他者からの存在認知も意識する段階へと突入していくことになります。
Chapter4:揺らぐ存在認知
写真を生業とすれば意に反した物も撮らなければならないと考え作り出したMALというキャラクター。しかし振り返ってみれば、そこで撮った全ての写真は自分の存在そのもの。
雑誌の表紙や広告など、魂を削りながら撮影したそれらの写真(媒体)を通し、普通に生活していては得られなかったであろう数多くの方々からいただいた莫大なストローク(存在認知)には、今も心より感謝しています。
しかし移り変わる意況の中で僕が選択した行動は業界引退… というよりもフォトグラファーそのものを止めること。
築いてきた実績や人脈、物やプライド、カメラ機材、遂には長髪から坊主頭へと命以外の殆どを削ぎ落とし、これまでに無いレベルで再び自分の存在と向き合うことを選択しました。
しかし心理学を学び心についてある程度の知識があったはずの僕がそこで感じたものは、想像を遥かに超えた耐え切れないほどの喪失感。
シャッターを切らない、表現を止めた僕はいったい何者なのか?
生きるために好きでも無いことを生業とすれば、僕の心、僕の存在は死に近づいていく。
生きているのに、生きていない。ここにいるのに、ここにいない…
全くカメラに触れることがなかった3年間も含め深く自分と向き合った7年の月日が無ければ、僕が再びここでポートレートを撮っていることも無かったと思います。
Chapter 5:故郷でのポートレート/最後の嘘
業界を引退する数年前のこと。
心の奥に残っていた蟠りと向き合い昇華させるために選んだ方法はやはりポートレート。
自分の存在、ルーツを再確認するため何度か実家に戻り家族や親戚のポートレートを撮影し大きくプリント、それを部屋中の壁に貼り付け眺めながら自分自身と対話をしていました。
この蟠りを解決することにより明確に現れてきた、自分に対する最後の嘘。
ここでの出来事も後に業界を引退する大きな理由のひとつになっています。
Chapter 6:Existence and Message / Edge of Life
フォトグラファー復帰後に心理学のスキルを落とし込みながら構築された「Existence and Message」と、そこから派生した「Edge of Life」。
生きるエネルギーと人の存在そのものを描写することに特化しながら、末期癌の方や今の命を自分らしく生きている方々を被写体にしたそれは、被写体となる人も、写真を見る人も、自分自身と対話することができるポートレート…
あなたの欲しい答えは、その一枚の中に在るかもしれません。
【 Edge of Life】
このプロジェクトは自らも生存率0%を克服し現在はNPO法人Smile Girlsの代表でもある善本考香さんにご協力いただきながら進行しています。
【善本考香:NPO法人Smile Girls代表】
NPO法人Smile Girls代表子宮頸がんよりリンパ節や肝臓などへの再発転移を5回経験。余命わずかと言われたが奇跡的に寛解。現在は、その体験をもとに、主に女性がん患者、ご家族の支援をする活動を仲間と展開している。
【MALからのメッセージ】
2020年…
いま僕は被写体となる方々の鏡となり、その人が写真を通してご自身の存在と対話ができるポートレートにしたいと日々努めています。
いかなる時も僕自身の根底にもあった「存在認知」のその定義とは「あなたがそこにいることを、私は知っている」。
心理学用語でストロークとも呼ばれ、人の心が生きていく上で一番欲しているものであり、それ無くして人は生きていけないと言われています。
ポートレート撮影は、その「存在認知/ストローク」を感じていただくための最高の手法。
それについて言葉で全てをお伝えすることはできませんが、その答えは写真の中に描写してあります。
人は誰であれ今の命を生きるということは「存在認知」を満たしていく作業、あるいは大切な人も含めた他者との「存在認知」を確かめていく作業なのかもしれません。
一枚のポートレートを鏡に自分自身や大切な人の存在と対話することにより、あなたが欲しかった答えがそこに在ったなら、僕は本望です。